[トップ][もどる]
ティルフィング/ティルヴィング
Tyrfing(古ノルド)/Tirfing(〃)/Tyrving(〃)/Tyrfingr(〃)

 北欧神話において、スヴァフルラーメがドヴァリン、ドゥリンを脅して作らせた剣。
「柄は黄金で決して錆びつかず、をもやすやすと切り裂き、持ち主に勝利をもたらす剣」という要求に対し、それに加えて「抜かれる度に必ず1人の命を奪い、3度まで望みを叶えるが、やがて持ち主も破滅する」という呪いをかけて返しました。…(1)
スヴァフルラーメ(Svafrlami)
 主神オーディン(Odin)の孫。
ガルダリケ(Gardariki/Gardarike)の王。

ドヴァリン(Dvalinn)
ドゥリン(Durin)
 岩山に棲むデック・アルヴァー(妖精)。
巣穴の前で座っていたところを、突然スヴァフルラーメに襲われた。

┌ガルダリケ(ロシア)───────────────┐
│    スヴァフルラーメ…(1)         │
│        ┃               │
アルングリムユウフラ…(2)          │
│      ┣━━━━━━┓          │
│(3)…アンガンチュール 他11人         │
└───────╂────────┐       │
┌グレシスベリル╂───────┐│       │
│(4)…ヘルヴォールホーフンド││       │
│     ┏━━━┫     ││       │
│ アンガンチュール┃…(5)  ││       │
└─────────╂─────┘│       │
┌レイドゴートランド╂───┬──┘       │┌フンヌ──┐
│  ハラルド   ┃   │ロルラウグ     ││  フムレ
│    ┃    ┃   ┏━━┻━━━┓   ││   ┃ │
│(6)…ヘルガヘイドレク      ┃   ││‥〓シフカ
│      ┃     ┃└─── ‥:┃   ││ ┃   │
│(7)…アンガンチュール ヘルヴォールヘルラウグ││フレード │
└────────────────────────┘└─────┘


 ティルフィングによって様々な戦功をあげたスヴァフルラーメでしたが、侵略者アルングリムの盾に剣が滑り落ちてしまい、それを拾われて命を落としました。
その後アルングリムはスヴァフルラーメの娘ユウフラ(Eyfura)を娶り、自らが王となりました…(2)
アルングリム(Arngrim)
 巨人族と人間のハーフ。
ハロガランド(Hålogaland)のバイキング。

 その後ティルフィングは長男のアンガンチュール(Angantyr)に受け継がれましたが、最期は相打ちの末、彼と共に剣は墓の中に葬られました。…(3)

 アンガンチュールにはヘルヴォール(Hervor)という、勇ましい男装バイキングの娘がいました。
彼女は偶然に父の墓を発見し、父の幽霊と問答の末、このティルフィングを譲り受けます。…(4)

 やがてヘルヴォールにはアンガンチュールとヘイドレク(Heidrek)という息子ができました。
兄アンガンチュールは賢く人徳に溢れる一方で、弟ヘイドレクは気性が荒く争いを好みました。
ある祝宴の席において客たちを争わせ死に至らしめたヘイドレクは、父ホーフンドによって国を追放されます。
その際に母ヘルヴォールからティルフィングを手渡されましたが、「抜かれる度に必ず1人の命を奪う」という呪いに従い、兄アンガンチュールを殺してしまいます。…(5)
ホーフンド(Höfund)
 グレシスベリル(Glæsisvellir)のグドムンド王(Guðmundr)の子。
ヘルヴォールがグドムンド王の下に身を置いていた折、その部下に剣を奪われそうになったためこれを殺害。
以来亡命していた所を、先見に優れたホーフンドが求婚した。

 その後ヘイドレクはレイドゴートランド(Reidgotaland)のハラルド王(Harald)に気に入られ、その下で国の強化に大いに貢献しました。
王の娘ヘルガ(Helga)とも結婚したのですが、飢饉の折にその息子アンガンチュールをに捧げよとの神託が下されてしまい、これをきっかけに王と対立。王とその後継者である息子を殺し、自らが王位に就きました。

 強く賢い王として国を平定していたヘイドレクは、「王に答えられない問いを出した者はその罪を免除される」という決まりを作ります。
ヘイドレクは自らと仲が悪かったゲスツムブリンデ(Gestumblindi)を召喚し白黒をつけようとしましたが、ゲスツムブリンデはオーディンに身代わりを乞い、オーディンはそれに応えます。
しかし全ての問いに答えられ正体も見破られたオーディンはに化け逃亡、その後暗殺者を仕向けてヘイドレクを始末してしまいました。…(6)

 ヘイドレクの息子アンガンチュールはこの暗殺者を見つけ出し、奪われたティルフィングを奪還し新たな王となります。
その夜ヘイドレクの葬儀が行われましたが、その席に庶子のフレードが現れ、遺産の半分を寄越すよう要求します。
アンガンチュールはこれに快諾したのですが、側近が「奴隷の子には多すぎる」と発言したため激怒。フレードは兵を率いてアンガンチュールに戦を仕掛けます。…(7)
フレード(Hlod)
 フムレ王(Humli)の孫。
ヘイドレクがフンヌ(Huns)に攻め込んだ際、王の娘シフカ(Sifka)を孕ませてできた子。

 アンガンチュールの妹ヘルヴォールは同名の祖母に似て勇猛でしたが、フレードとの戦いで戦死。
その後アンガンチュールはフレードを討ち取り、ティルフィングの伝説はここで幕を閉じます。
ヘルヴォール(Hervor)
 ガルダリケ(Gardariki/Gardarike)のロルラウグ王(Rollaugr)の孫。
先にヘイドレクの下に養子として預けられていた王子ヘルラウグ(Hrollugr)を殺したと嘘をついて王に仕掛けさせ、その謝意として差し出された王の娘との間にできた娘。


 余談ですが、イギリスのマイケル・ジョン・ムアコック(Michael John Moorcock)著の『エルリック・サーガ(Elric of Melnibone)』(1,965)に登場する魔剣「ストームブリンガー(Stormbringer)」は、このティルフィングがモデルになっているとも言われます。