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ガラス/硝子
Glass(英)/Verre(仏)/Vetro(伊)/Glas(独)

 広義で、非晶質の硬い固体のこと。
狭義で、ケイ酸塩を主成分とするそれのこと。
また、見た目や用途がガラスに倣うものも、便宜的に「○○ガラス」と呼ばれる場合があります。

 溶融した物質は冷えると結晶となりますが、急速に冷やすことで結晶とは異なる状態で固体となります。
前者を一般的な「固体」とすると、後者は「液体のまま固まった状態」とも称されます。
この状態は「非晶質(アモルファス)」と呼ばれ、結晶の時とは下記の異なる性質を持ちます。
組成が網目状であるため、結晶のように特定方向に割れやすいということがない。
組成が均一であるため、不純物がない状態ではそれ単体で色を持たない。
極めて鋭利にできる(先端径結晶の大きさが最小となるが、非晶質ではそれが0になる)。
融点で一気に融ける(結晶固体は部分的に液体となりその間温度が変化しない)。
その他熱伝導率、電気伝導率、屈折率、強度など。

 ケイ酸塩とは、簡単に言うとケイ素(Si)に酸素(O)や水素(H)が結合してできた化合物の総称。
一般的なガラスの主原料となる珪砂、その主成分である二酸化珪素(SiO2、石英、水晶)は若干特殊であるため厳密な定義から外れるものの、場合によりこのケイ酸塩の一種として扱われます。

 ガラスは金属より軽く、錆びず薬品にも強く、若干脆いものの充分な強度を持ち、宝石と遜色のない美しい見た目を持つため主に装飾品として用いられました。
石器時代においては天然のガラス(黒曜石)を武器として加工することもありましたが、金属を加工できるようになって以降では医療用メスやペーパーナイフなどの例外を除き、ガラスを実用的な刃物として用いる例はまずないと思って良いでしょう。

呼称とその由来
日本語語源補記
ガラスオランダGlasゲルマン祖語で「輝くこと」を意味する「Glōana」→ゲルマン祖語で「ガラス」を意味する「Glasa」。
硝子明治政府 硝石を用いることから。
ビードロポルトガルVidro江戸時代における通名。
インド・ヨーロッパ祖語で「水のような」を意味する「Wed-ro-」→ラテン語で「ガラス」を意味する「Vitrum」。
ギヤマンオランダ
ポルトガル
Diamant
Diamante
「ダイヤモンド」の意。
ダイヤを彫り道具として彫刻を施した高級なガラス細工を指す江戸時代の呼称。
玻璃中国玻璃仏教における七宝の1つで、正しくは「水晶」の意。
瑠璃朝鮮琉璃(유리)ガラス工芸品の古称。現代日本では「ラピスラズリ」を指す。
(切子)日本切り粉?「カットグラス(回転砥石で装飾を施したガラス製品)」の江戸時代の呼称。
(クリスタル)英語Crystarl Glass透明なガラスを指す「クリスタルガラス」の略。

ガラスの歴史
発祥時期と地域手法補記
後期旧石器時代
(紀元前3万年前〜)
黒曜石を叩き割って整形石器の一種。
ナイフ、斧、槍、矢じりなどに。
紀元前7,500年頃
アシクリ・ホユク遺跡(トルコ)
黒曜石研磨して整形黒曜石で作られた世界最古の工芸品(ブレスレット)。
現代でないとおよそ不可能な技術が用いられており、オーパーツに指定。
紀元前4,000年頃
エジプト、メソポタミア
珪石の表面を融かす石を玉石に変え、ビーズとして使用する。
紀元前2,300年頃
シリア・メソポタミア
植物灰などを用い
珪砂の融点を下げる
「アルカリ石灰ガラス」、「ソーダ石灰ガラス」、「ソーダガラス」などと呼ばれる。
植物灰(に含まれるカリウムやマグネシウム)のほか、ナトロンなども使われる。
紀元前1,600年頃
シリア・メソポタミア
耐火粘土で成型コアガラス:
芯とする粘土に融かしガラスを纏わせ、固めた後粘土を除去する。

型押し法:
粘土の型に融かしガラスを押し付け、形や模様を作る。

モザイク法:
凹と凸、2つの型で成型する。現在のプラスチック成型でも使われている。
紀元前17世紀頃
メソポタミア南部バビロニア
をガラスの材料にソーダ石灰ガラスと併せ、ガラス製造のレシピが記された石版が出土。
紀元前11〜8世紀頃
中国
白鉛鉱毒重石を材料に
(バリウムガラス)
メソポタミアからの伝来品か、それを真似たものか、独自発祥か。
学者の間でも意見まとまらず。
紀元前5〜3世紀頃
中国
 〃確実に中国で生産されたとされるガラスの始まり。
この時点で既に本格始動。
紀元前3〜1世紀頃
日本
 日本にガラス伝来。
紀元前1世紀頃
ローマ帝国のポンペイ
ならした砂の上に
融かしガラスを流し板状に
世界最古の窓ガラスがポンペイ遺跡(現イタリア)から発見。
分厚く不透明。採光用。
紀元前30年頃
シリアのフェニキア
パイプで吹いて成形
「吹きガラス技法」
鉄パイプをストローのようにして融かしガラスに息を吹き込み、風船を膨らませる要領でガラスを成形する。
現在、一般的によく知られる伝統技法
紀元前1〜紀元後3世紀頃
日本
 日本でガラスが生産されていた遺跡あり。
4〜7世紀頃
シリア
遠心力でガラスを板状に
「クラウン法」
吹きガラスで作った風船の反対側に別の竿(ポンテ)をつけて、パイプを外す。
パイプのあった所の穴を広げ、その後ポンテを回して遠心力で円盤にする。
これにより平らな板ガラスが作れるが、ポンテの跡が残る問題が。
9世紀頃
フランク王国(現ドイツ)
カットガラス装飾
(ステンドグラス)
ロルシュ修道院で用いられていたステンドグラスの破片が現存する最古。
8世紀にイスラム圏で生まれたラスター彩色により着色。
1,450年頃
イタリアのムラーノ島
酸化鉛をガラスの材料に
(クリスタルガラス)
酸化鉛を用いた無色透明のガラス。現在の主流
透明にできるだけでなく、溶融温度も下がる。
1,670年代
イギリス
 〃同上。独自発祥。
1,670年〜1,690年頃
ボヘミア(現チェコ)
木灰をガラスの材料に「カリクリスタルガラス」「カリ石灰ガラス」「カリガラス」などと呼ばれる。
現地でソーダ原料を賄ったものだが、結果として透明度の高いガラスに。
1,856年
イギリス
高温のガスで融かす
「シーメンス法」
1,600℃の水素ガスで金属シリコンから高純度のシリコン(ケイ素)を得る方法。
大量生産が可能になる。現在の主流
1,893年
ドイツ
ホウ酸をガラスの材料に
(ホウケイ酸ガラス)
ホウ酸を混ぜて融点と強度を高めたガラス。
耐熱ガラス。硬質ガラス。
1,950年代
イギリス
液体の上に流し板状に
「フロートガラス」
融けた金属の上に融かしガラスを流し込んで板状に成形する方法。
現在の板状ガラスの主流
1,970年
ドイツ
化学薬品で溶融
「ゾルゲル法」
有機溶剤で溶かすことで、高温を必要としないガラス溶融法。
ただし気泡を抜くために1,000℃は必要。